分かんない。



「川上さん、待った?」

川上さんは私を見るなり微笑んだ。

「大丈夫」

今日は川上さんと合格祈願する。
その為に私はおめかしをしてきた。
川上さんは黒く、
大人っぽい着物を着ていた。

合格祈願をする所には、
受験生らしき人が何人もいた。
恋人と来ている人や、
友達と集団で来ている人、
家族と一緒に来ている人。
色々な人が集まってきていた。
私も高校に合格する事を願って
お祈りをした。

「今日は俺と一緒に
合格祈願に行ってくれて
ありがとう」

「私こそ、ありがとう。
いい思い出になったよ」

私たちは笑顔を交わし合う。
川上さんは私を家まで
送ってくれた。

「へえ、お前の一緒に行く人って
ソイツだったんだ」

その声に、私と川上さんは
同時に振り向いた。
そこには苛立った様子の
一之瀬が立っていた。

「え、なんでお前がここに……」

「いや、俺はてっきり
杏子さんと行ってんのか
って思っててさ。
そろそろ帰ってきたと思って
会いに来たんだよ」

「川上さんから先に誘いが来たから
一緒に行っただけだよ」

「へえ……」

「なあ、美佐。俺は
お前と別れるって確かに言った。
でもそれはお前が、俺の事を
分からないからでさ。
その、なんつうか。
分かれよ。俺まだ
お前の事が好きなんだよ。
川上のとこに行ってしまうくらいなら
俺はもうお前を離さない」

「はっ、一之瀬てめぇ
神埼を手離したくせに
何言ってんだよ」

「あぁ?美佐は俺の女だ。
田所から守るのも俺が相応しい」

「てめぇっ!」

「っ……」

「川上さんっ!?」

川上さんは一之瀬の顔を
思い切り殴ってしまった。

「美佐に不自由な
思いをさせる男は許さねえ。
美佐が……美佐が誰を愛そうと
美佐の自由だ。
俺は美佐に不自由な思いをさせてまで
美佐を傍に置きたいとは思わねえ」

私を思って言う川上さん。

こんな状況でも
今の川上さんを見ると、
彼も男なんだと思ってしまう。

「川上、てめぇ……!!」

一之瀬も川上さんに殴りかかった。



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