分かんない。
「やめてっっ!!」
精一杯目を閉じて叫んだ。
私が想像していた鈍い音は
聞こえなかった。
目を開くと、一之瀬は
川上さんを殴ろうとは
していなかった。代わりに
私を凄い顔で睨んでいた。
「美佐…………、お前。
川上の方が好きなのか?」
「えっ……そういうわけじゃ…」
「なんで庇ったんだよ!!」
「っ……」
「美佐、俺は川上よりずっといいぞ。
顔も負けてないし、金だってある。
俺と結婚しても俺は将来有望だ」
確かに夢のような話だけれど
そんなお姫様のような生活を
してしまってもいいのかと
恐縮してしまいそうになる。
「……美佐ぁ、帰ってたの?
貴方たちも今日は疲れてたでしょ?
川上くん、今日はありがとう。
一之瀬くん、はい、これ。
お大事にね」
母は玄関から出てくると
颯爽と私を部屋に入れ、
川上さんや一之瀬を
家に帰そうとしてくれた。