白き薬師とエレーナの剣
 初めて見るグインの様子を、水月は訝しげに眺める。

 確かに自分はいずみを縛る人質でもあり、グインが一番いたぶりたい人間に近い者でもある。今さら言わなくても分かりきっていることだ。
 ただ、どうもそれだけではない理由が含まれているように思えた。

 グインに真意を訪ねようとした時、キリルが冷ややかにこちらを一瞥した。

「任務に関係のない話など時間の無駄だ。グインの戯言にいちいち反応せず黙って聞いていろ……同じことを二度も言わせるな」

 表情も声の調子も普段通りだが、キリルから苛立ちの気配が滲み出ている。ここでわざと挑発して口を開けば、拳ではなく剣撃が飛んでくる気がした。 

 水月は口を固く閉じて小刻みに頷く。
 それを見たグインが、肩をすくめて苦笑した。

「分かりました、今は本題に専念しましょう。でも、用事がない時にナウムと雑談するぐらいは許して下さいね」

 クスクスと茶化すように話すグインへ、キリルが無言で睨みつける。
 これ以上は冗談では済まないと察したのか、グインは小さく息をついてから「密偵からの報告で――」と話し出す。

 グインの真意を聞きたいような、聞きたくないような……複雑な思いを胸に抱えながら、水月は二人の話を聞き漏らすまいと耳を傾けた。
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