白き薬師とエレーナの剣
 水月に言われていずみの脳裏に、今まで妹と一緒に過ごした日々が流れる。

 里の子供たちの中でも群を抜いて物覚えは早かったし、男の子たちに混じり、度胸試しを何度となくしていたことも知っている。
 木の一番高い所へ登ってから、間髪入れずに湖へ飛び込んだ姿を見た時は、こっちの心臓が止まりかけたものだ。

(……きっと大丈夫よね。あの子は生き延びてくれる)

 心の中で自分にそう言い聞かせると、いずみは顔から力を抜き、大きく頷いた。

 それを見て水月は頷き返し、嬉しさを隠さず、指を軽快に動かした。

『絶対にみなもと再会しようぜ。それまでは、オレたちも何が何でも生き延びよう』

 彼の言葉を受け取るごとに、あまりに小さかった希望の光が、胸の中でどんどんと大きくなっていく。

 一族の秘密と力を守りながら、みなもと会える日が来るまで生きたい。
 そのためなら、どんな苦労をしても構わない。

 いずみの弱々しくなっていた目に、精気が戻り始めていた。

『分かったわ、みなものために生き抜いてみせるわ』

『そうそう、その調子だ。そのために、バルディグに着くまで、オレたちが生きる道を考えようぜ』

 水月の言葉が、いずみのに強固な芯を埋め込んでいく。
 この状況を乗り越えようとする気力が沸き上がってくる、

 彼がここにいてくれて良かったと、心の底から思えた。
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