白き薬師とエレーナの剣
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
材料を揃えていずみが薬を完成させたのは、夕食が運ばれてから、かなり時間が経過した後だった。
外の様子は分からないが、真夜中を少し過ぎた頃だろう。
水月は椅子代わりに座っていた荷箱の上で、グッと背筋を伸ばした。
薬を飲んだせいで、少し動くだけでも節々に痛みが走る。
全身が焼け付くように熱く、息をするだけでも苦しい。
思わず「うっ」と声を上げそうになり、水月は一旦息を止めてから、ゆっくりと長息を吐いた。
(予想以上のキツさだな……そりゃあそうだ、体の作りを根本から変えるんだ。無理もかかるってもんだよな)
水月の顔が痛みで歪む。
絶え間なく続く全身の痛みも辛いが、それ以上に胸奥から湧き出る鋭利な痛みのほうが辛かった。
目前のベッドではいずみが体を横たえ、浅く苦しげな寝息を立てている。
普通なら体の痛みで寝付けないだろうが、今は心身の疲労のほうが勝っているのだろう。涙をこらえるように口を固く結び、眉間に皺を寄せながらも眠りについていた。
水月は目を細めていずみを見つめる。
途端に目頭が熱くなり、ずっと堪えていた涙が滲んできた。
泣くことが許せなくて、水月は下唇を噛み、涙が溢れそうになるのを止めた。
(……いずみ、ゴメンな。お前にこんな辛い思いをさせてしまって)
膝に置いた手をグッと握り込み、肩を震わせながら俯く。
瞼を閉じると、身の内で暴れ狂う慟哭に、心臓を鷲掴みされているのがよく分かる。
感じ入れば入るほど、そこから生まれてくる痛みが一層強くなっていく。
けれど、どれだけの激痛が全身を巡っても、痛みが足らないと思ってしまう。
いずみの隣にいることすら許されない罪人。それが自分なのだから。
生きている間だけでなく、死んだ後まで永遠の苦しみを与えられたとしても、この罪を償うことなどできない。なぜなら自分は――。
頬に温かい物が流れた瞬間、水月は我に返って頭を上げる。
しばらく放心状態で虚空を見つめてから、おもむろに顔を手で覆った。
(畜生……早く止まれよ! こんな情けないツラ見せたら、いずみを余計に苦しませるだけじゃねぇか)
荒々しく袖で涙を拭っても溢れようとする涙を、固く瞼を閉じて力づくで押し込める。
落ち着こうと深呼吸をしても、一度乱れた心はなかなか整わなかった。
材料を揃えていずみが薬を完成させたのは、夕食が運ばれてから、かなり時間が経過した後だった。
外の様子は分からないが、真夜中を少し過ぎた頃だろう。
水月は椅子代わりに座っていた荷箱の上で、グッと背筋を伸ばした。
薬を飲んだせいで、少し動くだけでも節々に痛みが走る。
全身が焼け付くように熱く、息をするだけでも苦しい。
思わず「うっ」と声を上げそうになり、水月は一旦息を止めてから、ゆっくりと長息を吐いた。
(予想以上のキツさだな……そりゃあそうだ、体の作りを根本から変えるんだ。無理もかかるってもんだよな)
水月の顔が痛みで歪む。
絶え間なく続く全身の痛みも辛いが、それ以上に胸奥から湧き出る鋭利な痛みのほうが辛かった。
目前のベッドではいずみが体を横たえ、浅く苦しげな寝息を立てている。
普通なら体の痛みで寝付けないだろうが、今は心身の疲労のほうが勝っているのだろう。涙をこらえるように口を固く結び、眉間に皺を寄せながらも眠りについていた。
水月は目を細めていずみを見つめる。
途端に目頭が熱くなり、ずっと堪えていた涙が滲んできた。
泣くことが許せなくて、水月は下唇を噛み、涙が溢れそうになるのを止めた。
(……いずみ、ゴメンな。お前にこんな辛い思いをさせてしまって)
膝に置いた手をグッと握り込み、肩を震わせながら俯く。
瞼を閉じると、身の内で暴れ狂う慟哭に、心臓を鷲掴みされているのがよく分かる。
感じ入れば入るほど、そこから生まれてくる痛みが一層強くなっていく。
けれど、どれだけの激痛が全身を巡っても、痛みが足らないと思ってしまう。
いずみの隣にいることすら許されない罪人。それが自分なのだから。
生きている間だけでなく、死んだ後まで永遠の苦しみを与えられたとしても、この罪を償うことなどできない。なぜなら自分は――。
頬に温かい物が流れた瞬間、水月は我に返って頭を上げる。
しばらく放心状態で虚空を見つめてから、おもむろに顔を手で覆った。
(畜生……早く止まれよ! こんな情けないツラ見せたら、いずみを余計に苦しませるだけじゃねぇか)
荒々しく袖で涙を拭っても溢れようとする涙を、固く瞼を閉じて力づくで押し込める。
落ち着こうと深呼吸をしても、一度乱れた心はなかなか整わなかった。