白き薬師とエレーナの剣
 あと一歩で触れ合える距離まで進み、イヴァンたちは足を止める。
 そして、イヴァンはしばらくジッと二人を見下ろしてから、ようやく口を開いた。

「二人とも揃っているなら話が早い。今日はお前たちに聞きたいことがある……正直に話してくれるなら、それ相応の見返りをやろう。だが話さないというならば、無事では済まないと思え」

 低く突き放そうとする声に、いずみは思わず身を縮こませる。
 と、水月がいずみを引き寄せて優しく抱き締め、ポンポンと「心配するな」と背中を軽く叩いてくれた。

「分かりました。一体どんなお話でしょうか?」

 水月が硬い声で尋ねると、イヴァンは腕を組み、目を細めて二人を睨みつけた。

「俺の親父が不老不死を求めて、あれこれ取り寄せていることは知っているな? その中で一つ気になるものがあってな。ぜひお前たちに聞いてみたかったんだ」

 気になるものってまさか――。

 いずみの動悸が次第に大きく、激しくなっていく。
 まだハッキリしたことは言われていないのに、こちらの隠していることを見透かされている気がしてならない。

 動揺を抑えられないいずみとは反対に、水月は平然とした顔でイヴァンと対峙し続ける。

「それは祖父が扱っている薬草のことですか? そうでしたら私たちよりも、祖父に聞いたほうが早いと思いますよ」

 静かにイヴァンは首を横に振ると、いずみへ視線を移した。

「いいや、お前たちの口から聞きたい。……俺が知りたいのは『久遠の花』についてだ」

 言われた瞬間、思わずいずみは呼吸を止める。

 イヴァンはジェラルドの悪政に対して憤りを覚えている。
 そんな狂王を不老不死にするかもしれない『久遠の花』は、イヴァンにとっては到底受け入れられない存在だ。

 完全に正体が暴かれてしまったら、最悪この場で殺されてしまうかもしれない。
 体温は高くなっているのに全身から血の気が引いて、生きている心地がしなかった。

 水月はいずみを抱き締める腕に力を入れつつ、小さく息をついた。

「すみません、ちょっと私たちには分かりかねます。そんな名前の薬草、祖父からは聞かされていませんから――」

「いや、『久遠の花』は薬草ではない。親父が連れ込んだ、不老不死の術を持つ薬師だ」

 どうしよう、気付かれている。
 今すぐこの場をどう切り抜けるべきかを考えなくてはいけないのに、思考がうまく回ってくれない。

 鼓動に合わせて、いずみの目の前が白くなったり、逃げ出したい現実に戻ったりを繰り返す。
 水月も言い訳が考えつかないのか、口を閉ざしたままイヴァンを凝視している。
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