イケないこと
私よりも彼を良く知っていて、
それで時々こうして話を聞いて貰っていたんだ。
すぐ近くの公園を歩きながら、何も言わず私の話を聞いてくれる健吾。
「…でもさ、それって…」
そう彼が口を開いたと同時に、ポケットの携帯が音をたてる。
桐島さんからだ。
三回目の着信音に、私はゆっくりと携帯を耳にあてる。
『これから会えない?』
彼は知らない。私がこうして健吾に相談にのって貰っている事を。
イケない事をしている訳ではないのに、私の胸は慌て出す。
時折感じる
不自然な会話の間。
その時。
突然背中に感じた体温に、私の胸は大きく跳ね上がった。
力強く、そしてどこか落ち着く、背後から回されたその腕に、私の鼓動が音を増した。
『もしもし?』
私には彼氏がいる。
だけど、その心地よい背中の圧迫感に、健吾に今、感じている自分がいる。
この胸の高鳴りに、感情に流されてしまいそう。
揺れ動く私の心に、彼がそっと囁いた。
「ごめん――」
――俺、もう我慢できそうにない…
[完]