《短編》空を泳ぐ魚2
「タクシー呼びますよ。」


“帰りましょう”と言い俺は、逃げるように立ち上がった。


同じように立ち上がった桜井先生は、

瞬間、ガタッと音を立ててよろめき、俺にしがみ付いた。


服越しに、微かに伝わってくる少し早い心臓の鼓動。


この人、俺のこと誘ってんのかよ。



「…大丈夫ですか?」


「えっ、えぇ。
すいません、私…」


先ほどより更に紅潮した頬で桜井先生は、ハッとしたように俺から離れて。


清水居なかったら、俺もお持帰りしちゃうんだろうけど。


さすがに俺、そんな無茶出来る立場じゃないし。


てゆーか、アイツ抱きたくて堪んねぇ。


こんな女なんかいらねぇよ。





「…あの、岡部先生は…お付き合いされてる方とか…いらっしゃるんですか?」


静かすぎるタクシーの車内、桜井先生は俺に問い掛ける。


見上げてくる潤んだ瞳を俺は、作った笑顔で唇の端を上げて。



「残念ながら。」


それだけ告げた。


多分この女は、俺のこと好きになってたりするんだろうけど。


悪いけど、アンタには心動かされないや。



「運転手さん。
そこのコンビニ入ってください。」


そう俺は、声を上げた。


すぐにタクシーは、コンビニの駐車場へと入って。



「水、買ってきますね?」


「あっ、私も行きます!」


降りようとした瞬間、桜井先生も声を上げて。


離れたいから、降りたのに、と。


再びため息を混じらせた。



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