《短編》空を泳ぐ魚2
街から近い場所にあるコンビニで、いつもの場所ではない。


こんな場面、清水になんか見られたくねぇから。


早くこの人送って、煙草吸いたいし。



ミネラルウォーターを両手に一本ずつ持ち俺は、レジへと向かう。


何かを買うわけでもない桜井先生も、俺の後ろばかりついてくるし。



「マジで言ってんの~?!」


馬鹿みたいな男の声が店内に響き俺は、

小銭を出しながら無意識のうちにそちらに顔を向けた。



「―――ッ!」


瞬間、目を見開いたままの俺の手から、小銭が抜け落ちる音が響く。


俺に気付いたのだろう相手も、

先ほどまで笑っていたはずの顔が次第にこわばり始めて。



「…清水、さん…?」


俺より先に、桜井先生がその名前を呼んだ。


空気が止まるのを感じて。



「えっ?
セナちゃん知り合い?」


キョトンとした清水の隣の男が、俺達の顔を見比べる。


俺より少しだけ若いのだろう、その男。


“誰だよ?!”なんて、聞ける状況じゃなかった。



「あの、これはね?
何て言えば良いか…見なかったことにして欲しいの!」


「―――ッ!」


突然にそう、桜井先生は声を上げて。


誰が聞いてもこの言葉は、勘違いされてしまう。



「ハッ、そーゆーこと?」


そう言った清水は、唇の端を上げた。



「心配しなくても、あたしは教師のプライベートをとやかく言ったりはしないよ。
ねぇ、先生?」


「―――ッ!」


清水のその瞳の奥は、笑ってなんかいなくて。


俺を見上げる冷たい瞳に、言葉が出なかった。



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