《短編》空を泳ぐ魚2
「行こっ♪」


そう言った清水は、隣の男に笑顔を向けた。


俺だけが独占していたはずの清水を、いとも簡単に奪われて。


俺との関係を切りたかったのって、こーゆーことだったのか?


名前を呼ぶことも、手を伸ばすことも相変わらず出来なくて。


死にそうだった。



「…あの、清水さんを信用出来るんでしょうか?」


「大丈夫ですよ、清水なら。」



大丈夫じゃないのは、俺だけだ。


何であの男なら良いんだ?


あの男なら、お前は逃げて行かないのか?


あの男になら、お前は心を開くのか?



あの男に…


抱かれてんのかよ…




「すいません。
俺、用事思い出したんで。」


「えっ?!」


戸惑う桜井先生にそれだけ告げ、足早にコンビニを出た。



二人が歩いて行った方向に、自然と足が向いて。


早足になり、次第に小走りになって。


絶え絶えになる息を切らしながら、それでも俺は、足を止めなかった。



だけど区画された道路で、二人の姿を探すことは出来なかった。


清水を、見つけることが出来なかったんだ。


いつの間にか秋になった風が、熱を持った俺の体を通り過ぎて。


もぉあのぬくもりを、思い出すことも困難だった。



「…ホントに終わりなのかよ…」


呟く声が、路地裏に消えて。


ポケットから取り出したクシャクシャの煙草の箱から、一本を抜き取った。



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