《短編》空を泳ぐ魚2
進路の報告をした途端、誰からも、何も言われなくなった。


みんな、丸く収まればそれだけで良いんだ。


あたしはこのまま、流されるままに印刷会社だか何だかに就職するのだろうか。



家にも帰りたくなくてあたしは、毎晩のようにバイトの終わり、

ライブの終わった余韻に浸りながら、誰も居なくなったステージを見つめて。


熱を失ったようにその場所も、そしてあたし自身も冷たくなっていて。


相変わらず、心の穴は閉じてはいない。




「セナちゃん、まだ居たの?」


突然後ろから声を掛けられあたしは、ハッとしたように振り返った。


ズボンのポケットに手を突っ込んで立っているのは、

誠のバンドのボーカル、“タクちん”だ。


格好良くて優しくて、それでいてバンドのリーダーなんだから、

女をとっかえひっかえしてそうに思われてるけど。


根は真面目な、専門学校生。



「…何か、帰る気分じゃなくてさ。」


それだけ言いあたしは、力なく笑った。



「んじゃあ、この前借りてたCD返したいし、俺んち行かない?」


「えっ?」


歯を見せて笑ったタクちんにあたしは、驚いて声を上げた。



「…良いよ、そんなのいつでも。」


「ってのはまぁ、口実でさ。
誠のことだよ。
アイツ最近練習中も上の空なんだけど、理由聞いても教えてくれなくてさ。
セナちゃんなら何か知ってると思って。」



そんなことか。



「しょーがない。
暇だし、タクちんち行ってあげるよ。」


「ははっ、サンキュ!」


子供のようにクシャッと笑ったタクちんに少しの笑顔を向け、

二人で一緒にライブハウスを後にした。


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