《短編》空を泳ぐ魚2
Ⅶ
進路の報告をした途端、誰からも、何も言われなくなった。
みんな、丸く収まればそれだけで良いんだ。
あたしはこのまま、流されるままに印刷会社だか何だかに就職するのだろうか。
家にも帰りたくなくてあたしは、毎晩のようにバイトの終わり、
ライブの終わった余韻に浸りながら、誰も居なくなったステージを見つめて。
熱を失ったようにその場所も、そしてあたし自身も冷たくなっていて。
相変わらず、心の穴は閉じてはいない。
「セナちゃん、まだ居たの?」
突然後ろから声を掛けられあたしは、ハッとしたように振り返った。
ズボンのポケットに手を突っ込んで立っているのは、
誠のバンドのボーカル、“タクちん”だ。
格好良くて優しくて、それでいてバンドのリーダーなんだから、
女をとっかえひっかえしてそうに思われてるけど。
根は真面目な、専門学校生。
「…何か、帰る気分じゃなくてさ。」
それだけ言いあたしは、力なく笑った。
「んじゃあ、この前借りてたCD返したいし、俺んち行かない?」
「えっ?」
歯を見せて笑ったタクちんにあたしは、驚いて声を上げた。
「…良いよ、そんなのいつでも。」
「ってのはまぁ、口実でさ。
誠のことだよ。
アイツ最近練習中も上の空なんだけど、理由聞いても教えてくれなくてさ。
セナちゃんなら何か知ってると思って。」
そんなことか。
「しょーがない。
暇だし、タクちんち行ってあげるよ。」
「ははっ、サンキュ!」
子供のようにクシャッと笑ったタクちんに少しの笑顔を向け、
二人で一緒にライブハウスを後にした。
みんな、丸く収まればそれだけで良いんだ。
あたしはこのまま、流されるままに印刷会社だか何だかに就職するのだろうか。
家にも帰りたくなくてあたしは、毎晩のようにバイトの終わり、
ライブの終わった余韻に浸りながら、誰も居なくなったステージを見つめて。
熱を失ったようにその場所も、そしてあたし自身も冷たくなっていて。
相変わらず、心の穴は閉じてはいない。
「セナちゃん、まだ居たの?」
突然後ろから声を掛けられあたしは、ハッとしたように振り返った。
ズボンのポケットに手を突っ込んで立っているのは、
誠のバンドのボーカル、“タクちん”だ。
格好良くて優しくて、それでいてバンドのリーダーなんだから、
女をとっかえひっかえしてそうに思われてるけど。
根は真面目な、専門学校生。
「…何か、帰る気分じゃなくてさ。」
それだけ言いあたしは、力なく笑った。
「んじゃあ、この前借りてたCD返したいし、俺んち行かない?」
「えっ?」
歯を見せて笑ったタクちんにあたしは、驚いて声を上げた。
「…良いよ、そんなのいつでも。」
「ってのはまぁ、口実でさ。
誠のことだよ。
アイツ最近練習中も上の空なんだけど、理由聞いても教えてくれなくてさ。
セナちゃんなら何か知ってると思って。」
そんなことか。
「しょーがない。
暇だし、タクちんち行ってあげるよ。」
「ははっ、サンキュ!」
子供のようにクシャッと笑ったタクちんに少しの笑顔を向け、
二人で一緒にライブハウスを後にした。