《短編》空を泳ぐ魚2
「あの、これはね?
何て言えば良いか…見なかったことにして欲しいの!」


「―――ッ!」


突然に数学魔女は、取り繕うようにしどろもどろで言葉を並べて。


それを聞いた瞬間、何故かあたしは、笑いが込み上げて来て。



「ハッ、そーゆーこと?」



あれだけあたしに“好きだ”とか言葉を並べていても結局、

この男でさえも、あたしなんて本当に必要なんかじゃなくて。


3回あった着信は、出なかった。


それ以降、学校で話しかけてくることさえもないとは思っていたら、

こーゆーことだったのか。


当たり前だ。


あたし自身が、あの日、関係を終わらせたのだから。



「心配しなくても、あたしは教師のプライベートをとやかく言ったりはしないよ。
ねぇ、先生?」


「―――ッ!」


唇の端を上げ、岡部に向けた。


元々教師が何をしていようと、あたしには関係のない話だから。


この男が何をしているようとも、あたしには何の関係もないんだから。


あたしの言葉に岡部は、取り繕おうともしなくて。


だけど話したくなんてなかったから、あたしにはそれで良かった。



「行こっ♪」


タクちんに笑顔を向けあたしは、

その腕を引っ張って先ほど入ってきたドアから出た。


噛み締めた唇が痛くて。


何でこんなにも、裏切られたような気持ちにさせられるんだろう。


あたしはただ、あの男を利用してただけだったのに。



「…セナちゃん。
腕、痛いって。」


「えっ、ごめん!」


ハッとしたようにあたしは、タクちんの言葉で我に返った。


いつの間にか力を入れていた手を、急いで放して。


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