《短編》空を泳ぐ魚2
「…どこまで引っ張って行くのか知らないけど、俺んちここだよ?」


そう言われてみると、いつの間にやらタクちんの家の前まで来ていて。


ははっと乾いた笑いを向けあたしは、家の中に入るタクちんに続いた。


後ろを振り返るなんて馬鹿なこと、したくなかったから。



「おっじゃまー。」


それだけ言い、何度か来たことのあるタクちんの家の中に入り、

玄関のドアを閉めた。


先ほどのこと、タクちんにどう思われたのか。


それが少し、気掛かりだった。


タクちんの部屋は、男のくせに綺麗に片付いていて。


こんなに完璧な男なのに彼女が居ないなんて、不思議で仕方がない。



「…あたし、タクちんと付き合いたーい…」


そう呟き、その場に腰を降ろして低いテーブルに突っ伏した。


ため息を零したタクちんは、何も言わずにあたしの向かいに腰を降ろして。



「…セナちゃんなら、俺なんかじゃなくてもっと良い人居るはずだよ。」


「ははっ、振られた。」


だけどそんな風に言ってくれるタクちんの優しさを感じて、

何故だか泣きそうになった。


相変わらずタクちんは何も言わず、貸していたCDをテーブルに置いて。



「…そんなこと言うのって、さっきの“先生”が原因?」


「―――ッ!」


どれくらいの沈黙だっただろうタクちんは、諦めたように口を開いて。


“先生”なんて言葉を聞きあたしは、やっぱり息苦しくなって。



「…そんなんじゃ…ないよ…」


それだけ言うのが精一杯だった。


タクちんに振られて悲しいんじゃないことくらい、自分でもわかってるけど。


今は、何も言いたくはなかった。


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