《短編》空を泳ぐ魚2
秋も深まった本日、体育祭。


運動の秋だとは思わないし、晴れてるからってあんまり嬉しくもない。


スピーカーから流れる定番のリレーの音楽に合わせ、

実況してんだか叫んでんだかの放送部の声が、うるさくグラウンドに響いて。


玉入れに出た時点で、今日のあたしの仕事は終了だ。


一個だけ入れることも出来たし、あたしも十分クラスに貢献したはずだ。


お疲れ、自分。


そう自分で自分をねぎらい、養護教諭のババアを探す。



「先生ー。
あたし、日射病で目が回るんだけどー。」


嘘臭く千鳥足でおでこに手を当てるあたしに、

驚いたような顔した養護教諭が近付いてきた。



「まぁ、清水さん!
大変じゃない!!」



大変なのは、アンタの顔のシミだけだ。



「保健室で寝てて良い?」


「そうね、それが良いわ。」


そう言った養護教諭の心配そうな顔に、

“ひとりで行けるから大丈夫”とだけ告げあたしは、グラウンドに背を向け歩き出して。



静まり返った校舎に、あたしの足音が小さく響く。


煙草が吸いたくてそのまま、保健室を通り過ぎて屋上に向かった。


ガチャッと重たい扉を開けた瞬間、吹き抜けた風に目を細めて。


遠くで聞こえる歓声やアナウンスに、

やっとあたしは、少しだけ解き放たれた気分になれた。


冷たいコンクリートの壁に背中を預け、バッグから取り出した煙草に火をつけて。


吸い込み吐き出した煙が、風に乗って秋空に消える。


見上げた空に、やっぱり魚の形は見つからなくて。


今日もどうせ、良いことなんてひとつもないのだろうな、と。


ため息と共に、再び長く煙を吐きだした。


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