《短編》空を泳ぐ魚2
「…実は彼女、日射病で保健室に向かいましてね?
顔色も悪かったから心配なんですよ。」


“でも私、他の生徒の怪我の治療もあるし”


そう困った顔で頬に手を当てて言う養護教諭に俺は、目を見開いた。


忘れたいのに、忘れられなくて。


心配なんてしたくないのに、こんなことばかり。



「…私の代わりに、様子を見に行ってもらえます?」


「―――ッ!」


俺が何か言うより先に、養護教諭は他の生徒に呼ばれて。


頼まれたまま俺は、固まってしまう。


別に、俺じゃなくても良いはずなんだ。


だけどもし、ホントにアイツがヤバかったら?


そんな風に思うと、自然と校舎の方に足が向いて。


気付いた時には、あの日のように馬鹿みたいに走ってて。



ガラッと開けた保健室は、もぬけの殻だった。


それどころか布団でさえも、誰かが入った形跡さえないほどに整っていて。


結局俺は、アイツの嘘に踊らされただけだった。


そう思うと、無性に悔しくなってきて。



“お前普段、どこでサボってんの?”


“屋上でひなたぼっこ”


確か夏休み、そんな風に言っていたことを思い出して。


そのまま俺は階段を4階まで駆け上がり、

屋上の扉の前で一度呼吸を落ち着かせた。


本当に、何やってんだかわかんねぇけど。


もぉこんな状態、いい加減限界で。


ゆっくりと、そのドアノブに手を掛けた。



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