《短編》空を泳ぐ魚2
「…あの男ともヤってんの?」


「―――ッ!」


言葉にして言えば、急に現実味を帯びて聞こえてきて。


驚くように清水が顔を上げた瞬間、握り締めていた両手首に力を込めた。


その首筋に顔をうずめると、

今までと何ら変わりない彼女の香りに胸が締め付けられた。


俺だけだと思ってたはずだったのに。



「こんな場所じゃ絶対誰にもバレねぇし、最後にヤるのも悪くねぇよな。」


声にならない苦痛に顔を歪める清水に、唇の端を上げてそう聞いた。


あの男が良いなら、泣き叫んで抵抗すれば良いんだ。


大っ嫌い、と。


言ってくれたら俺は、きっと楽になれるのに。


ちゃんと振ってくれなきゃこんなの、もぉ苦しすぎるんだよ。



「…やめて…離してよ…!」


なのに俺の予想に反して清水は、

声を震わせ、体を震わせて絞り出して。


その瞬間、ハッとした。


俺は、こんな風にしたいなんて思ったこと、一度だってなかったのに。


罪悪感ばかりが支配して。


その瞬間、気付いたら抱き締めていた。



「…なぁ、俺の何が気に入らねぇの?
そんなに俺じゃ嫌?」


「―――ッ!」



頼むから、俺のこと嫌えよ。


あの男が良いって言ってくれよ!



「…もぉ…こーゆーことしないで…」


だけど清水は、それしか言ってはくれなくて。


ゆっくりと俺は、その体から離れた。



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