《短編》空を泳ぐ魚2
「…本気で終わらせたいなら、放課後、英語科の資料室に来い。」


「―――ッ!」



好きだ、って。


最後にちゃんと伝えたら、俺は振ってもらえるのかな。


そう思うと、言いだした俺自身が悲しくなってきて。


とても、その顔を見ることが出来なかった。



「…行かないから。」


「なら、来るまで待ってるよ。」


それだけ告げ俺は、重い扉を開けて。


屋上を出るなり背中から、ガシャンと扉の閉まる音が響く。


俺たちの間にある、重く、大きな扉の音そのもの。


一段一段階段を降りる度に、俺の足音が校舎の静寂の中に響く。


心臓の音は、漏れ聞こえてきそうなほどに大きくて。


そして、息苦しく堪らなかった。


最後にもう一度、その唇に触れれば良かった。


思い出す度切なくなって。


本当に俺は、このまま死んでしまうのかもしれない。


あれから一度も、魚は食べていないのに。


もしヒョッコリ、清水が現れたらと思うと、食べることさえ出来なくて。


それも多分、今日で終わりだ。


何より自由を望むアイツを俺は、捕えようとしてしまったんだから。


見つめた手の平をすり抜けるように、渡り廊下からの風が吹いて。


握り締めてみても、何も掴んではいなかった。


あぁまるで、それは俺達の関係みたいで…


握り締めたままの震える左手の手首を、自身の右手で掴んだ。



「…死にそう…」


もぉ何度、こんな言葉を呟いただろう。


俺の声は、廊下に響くこともなく消えた。



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