《短編》空を泳ぐ魚2
あれから清水は、閉会式までグラウンドに顔を出すことはなくて。


来たかと思えば、白石と一緒だった。


それから程なくして体育祭は無事に終了。


副担任の俺はホームルームに出ることもなく、後片付けをさせられて。


だけど顔を合わせなくて済むのなら、これで良かったのだろう。


時計の針が時間を刻む度、心臓の音は増している気がして。


とても落ち着けなくて俺は、全てが終わるや否や、英語科資料室に向かった。



ガチャッと鍵を開けると、一番にカビ臭い匂いが鼻につく。


まだ廊下では、ザワザワと今日の余韻に浸っているのだろう生徒達の声。


アイツのことだ、来ない可能性もあって。


普段は気にも留めない散らばった資料を持ち上げ、部屋を片付ける。


こんなことでもしてなきゃ落ち着かないなんて、本当に馬鹿みたいで。


次第に生徒達の声がまばらになりだし、

そしてカーテンを閉めていない窓から西日が差し込み始めて。


すっかり片付けるところもなくなり俺は、

きっと来ないのだろうと椅子にドカッと腰を降ろした。



―ガラガラ…

「―――ッ!」


ゆっくりと扉の開く音が静寂に響き俺は、ハッとして顔を上げた。


だけどそこに立っていたのは、清水なんかじゃなくて。



「…桜井、先生?」


「今日、お疲れ様でした。」


問い掛けようとする俺より先に、桜井先生は笑顔を向けてきて。


戸惑うように俺は、曖昧にしか笑えなかった。



「…何かご用ですか?」


椅子に腰を降ろしたまま見上げる俺に、

桜井先生は小さくなったように俯いて、“はい”とだけ短く言って。


やれやれと俺は、その顔を斜めに見上げた。


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