《短編》空を泳ぐ魚2
アイツが居なくたって、あたしの毎日なんて何も変わらない。


大嫌いな学校が終われば、一目散に帰って着替えて。


バイトで走りまわり、ステージ横でハジけるみんなを笑いながら見つめて。


クタクタになりながらいつもの道を帰り、

そしていつものコンビニでいつものお弁当を買うんだ。


それから家に帰り、“ごめんね”と呟きながら熱帯魚たちに餌をやって。


ほら、見ろ。


この生活に、岡部なんてどこにも必要ないんだ。


ないはずなのに。


なのに何で、今日はこんなに虚しいのだろう。


どんなに激しいステージを見ても、どんなにぶっ飛んだ音楽聴いても。


なにひとつ、心動かされない。


先ほどの光景が、未だにまぶたの裏に焼き付いたように離れなくて。


頭の中から、岡部が居なくなってくれない。


それどころか吐きそうなのは、

ホントに日射病になったのか、前より強い呪いにかけられたのか。


それとも単に、岡部が気持ち悪いのか。


そんなこと、あたしにわかるはずもなかった。


相変わらず痛みばかり伴う胸は、ちっとも楽にはならなくて。


きっと病気なのだろうと思った。


“恋の病”なんて人は言うけど。


そんなもの、医学事典には載ってなかった。


あたしはあんな男に恋心なんて抱いていないんだから。


そもそもそんな病、存在しない。


“好き”って言葉も何もかも、ただの嘘っぱちに過ぎなかった。


それが今日、証明されただけのことだ。


傷ついていない、傷ついていない、と。


繰り返すことで本当に、傷ついた気分にさせられるのは何故だろう。


ただ、涙が出そうになるのを堪えることで、精一杯で。


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