《短編》空を泳ぐ魚2
「あの!」


声のした方に顔を向けた。


暗い場所に目を凝らすと、男がこちらに近寄ってくる。


キョロキョロとしたが、辺りにはあたし以外に誰も居なくて。



「…あたし?」


そう首をかしげると、男はあたしの前まで来て足を止める。


どこかで見覚えがある顔なのだが、どうにも思い出せなくて。



「僕です、田口。」


“コンビニの!”と後ろのいつものコンビニを指しながら言われ、


“あぁ!”とあたしは思いだした。


確かちょっと前、この男に心配をされ、プリンを買ったのだった。


岡部の家に忘れた、あのプリン。



「…えっと、何か?」


だけど、田口と話すことなんてあたしには何もないし。


なぜ呼び止められたのか、理由すらわからない。



「単刀直入に言います!
実は僕、前からあなたのことが好きでした!」


「―――ッ!」



単刀直入すぎだろう。


ポカンとしたあたしに、瞬間、田口はキョドりはじめて。



「…あの、えっと…。
接客してて可愛いなぁとか思って、それで…えっと…」


そう語尾が小さくなっていく田口にあたしは、

戸惑うことしか出来なくて。


人があたしに向ける“好き”なんて、とてもじゃないけど信用出来なくて。



「…困り…ます…」


使い慣れない敬語も、こんな状況も。


もぉ何もかもグチャグチャで。


とっくに許容量をオーバーしている頭に、無理やりに色々なことが詰め込まれて。


爆発してしまいそうだった。


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