《短編》空を泳ぐ魚2
家に帰った。


虚無感ばかりが俺を支配して。


あれからどうやって家に辿り着いたのかすら思い出せなくて。


気付けば灰皿は、短くなったピンカスが隙間なく溢れていて。


持ち上げた煙草の箱には、一本も残されてはいなかった。


こんな時でも腹は減るし、まだ煙草だって吸い足りなくて。


そう言えば今日、魚解禁するんだったっけ、と。


思いだした自分に、笑いが込み上げてきた。


フラフラと立ち上がり、家を出て寂しい街灯に照らされながら歩く。


冷たい風が俺の頬を射すように通り抜け、

痛みで未だに生きていることを実感した。


冷たくなった指先に、触れるものはなくて。


ひどく彼女のことを恋しく思う自分を嘆いた。



「…仕事、辞めようかな…」



再就職先を探すには、ちょうど良い時期なのだろう。


どうせクビになるんなら、自分から辞めた方が良いに決まってる。


そう思いながら、角を曲がった。



「―――ッ!」


「うおっ、岡部?!」


そう言った金髪頭は、とっさに持っていたものを地面へと投げ捨てて。



「…白石かよ…。
つーか、煙草バレバレだっつーの。」


地面に転がったまだ煙を昇らせるそれに一度目線を移し、

そしてため息を混じらせながら白石戻した。



「何でもするから!
だから、見逃せ!!」


「…別に良いよ、煙草くらい。
それからお前、もーちょっと頼み方ってもんを学習しろよ。」


やれやれとそう言いながら、こめかみを押さえた。


こんなもんをプライベートで取り締まったって何にもならないし、

何より俺は、もぉすぐ教師じゃなくなるんだろうし。


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