《短編》空を泳ぐ魚2
ⅩⅠ
昨日のあたしは、絶対どうかしてたんだ。


きっと、知らない間に頭でも打ったに違いない。


いやもしかしたら、ジュースと間違えてアルコールを口にしたのかも。


だからあたしは、変だったんだ。


そう思わなければ、やってられない。



「セナー♪」


朝っぱらからテンションの高い誠が、あたしを見つけて駆け寄って来て。



「…俺は可愛い妹のために、昨日見たことは他言しないからな?
大丈夫、俺は口は堅いのだ!」


「…何のこと言ってんの?」



どうやら誠も、頭をぶつけてしまったらしい。


あたしはこんな馬鹿の“妹”になった覚えはないし、

人に言えない秘密もない。


何だかよくわからないことを言う誠に、余計にため息ばかりが増えて。



「おっ、岡部じゃん!」


「―――ッ!」


瞬間、口元を引き攣らせた。


願いとは正反対に、来てほしくもないのに誠が声を掛けた所為で、

岡部がこちらに気付いて。



「おはよう。」


作ったような顔で、爽やかに挨拶をされてしまって。


面倒なのであたしは、背中にある窓の外に視線を移すようにして目を逸らした。



「岡部の秘密は、この俺様が握った!」


ガハハッと笑う誠の声が、賑わいをみせる廊下に響いて。



「…なぁ、白石。
今この場で、てめぇの持ち物検査してやっても良いんだぞ?」


「なっ、卑怯だぞ?!」


声を潜めた岡部に、誠は瞬間に焦り始めて。


何だか面倒になりあたしは、その場から逃げるように教室に向かった。


< 78 / 87 >

この作品をシェア

pagetop