《短編》空を泳ぐ魚2
澄み渡ったように秋晴れの青い空。


たゆたうような雲が、柔らかい風に流されて。


窓際の席であたしは、そんな雲の動きを見つめ続けた。


何でかわかんないけど、気付いたら息苦しさもなくなっている気がして。


胸に空いた大きな穴も、塞がっている気がした。


岡部のおかげだとは思いたくないが、それ以外には思いつかなくて。


悔しさばかりが溢れてしまう。



「あっ!」


思わず声が漏れた。


見つめ続けていた空に漂う雲が、くっついては離れてを繰り返して。


気付けば魚の形になっていたのだ。



「…泳いでる…」


久し振りに見たそれに、自然と心が穏やかになるのを感じて。


きっと今日は、何か良いことがあるのだろう、と。


嬉しくなって携帯を取り出し、写メールに収めた。


そのまま満足して机に突っ伏し、寝る態勢に入る。


意外なことに、一時間目は数学魔女の授業だってのに、

寝ていても何も言われることはなくて。


それどころか今日は、数学魔女に避けられている気さえして。


何だかよくわからないが、

もしかしたらあたしにかけられていた呪いは解けたのかもしれない。


だから数学魔女は、悔しそうな顔であたしを見つめているのだろう。


魚雲のパワーは、どうやら想像以上に凄いらしい。


そのパワーで、あたしも白タイツの似合う王子様に出会わせてはもらえないだろか。


そんな夢を馳せながら、今日一日とてもハッピーに過ごすことが出来た。



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