《短編》空を泳ぐ魚2
「…何が原因かねぇ…」


そう呟きながら俺は、自分のデスクに広げただけの資料集を見つめた。


今一番気がかりなのは、清水が何に悩んでるか、だ。


ぶっちゃけ、他の生徒が受験に失敗しようとも、俺には関係ないとさえ思っている。


我ながら、教師失格。


2学期になり、仕事としては慣れたけど。


清水とのこんな生活も、残すところあと半年。


可哀想だから卒業させてやりたいけど、そしたら来年からつまんなくなりそうだしなぁ。



「悩み事ですか?」


瞬間、現実に引き戻されたように俺は、ハッとしてその声の主に顔を向けた。


首をかしげて俺に微笑む隣のデスクの女は、

産休に入った教師の代わりにやってきた非常勤講師。


生徒たちからは“美奈子ちゃん”とか呼ばれてる、桜井先生。


数学担当で、ムカつく白石誠のクラスの副担任でもある。


清水とは正反対のお嬢様のような微笑みに俺は、適当に言葉を濁した。


2学期に入って、この女が隣のデスクにやってきて。


確かに若い良い香りには包まれるようになったが、

俺の一個上らしく不安がイッパイで、よく話しかけられるのだ。



「でも、岡部先生は凄いですよね。
私なんて、未だに生徒の前だとアガってしまって。」


「気の持ちようですよ。」


赤らめるその顔に微笑み返し、次の授業のために立ち上がった。


ぶっちゃけ、この人苦手なんですけどね。


社会人になってすっかり板についた作り笑顔に、

顔の筋肉も慣れてしまったらしい。


誰にも聞こえないようにため息を吐き出しながら、職員室をあとにした。


もぉ無意識のうちに、清水の姿を探すことが日課になってしまった自分。


空を見上げるその姿を見つけては、次はどんな作戦で呼び出そうか、と。


考えてしまう俺は、やっぱり教師になんか向いていない。


だって俺、清水が居るから楽しいんだもん。


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