僕の可愛いシロ [短編]
 七時。まだ目覚めない体に鞭を打ちながら、制服に腕を通す。ベットではシロが小さく伸びをしていた。

「じゃあ行ってくるからね。寂しいけどいい子にしてるんだよ」
 いつものようにシロの頭を優しく撫でて、部屋を出た。部屋を出る時、シロはいつも哀しそうに僕を見上げる。その表情がたまらなく、僕に愛おしい感情を湧き上がらせる。

 制服のポケットから鍵を取り出し、しっかりと部屋を閉める。ガチャンという音が虚しく響く。
 母親は、昔からペットを飼う事を嫌っていた。だから勿論、シロの事も内緒だった。後ろ髪を引かれながらも階段を降り、玄関へと向かった。


「ユウちゃんっ、ご飯は?」
 玄関で靴を履いていると、パタパタと足音が聞こえ背中から甲高い声が響いた。
「今日はいいよ。お腹空いてないんだ」
 ニッコリと微笑んで、後ろを振り返る。
「いいって最近ずっとそうじゃないの。ちゃんと食べないと勉強に集中出来ないのよっ?」
「……ごめん」
「こないだのテストだってあんな酷くて……ママ、恥ずかしくってご近所さんとも顔合わせられないのよっ?」
 そう言って顔を歪めて僕を睨む。
「次は頑張るから」

 僕は逃げるように玄関を飛び出した。ちゃんと塾に行きなさいよ! と追い打ちをかけるように母親の叫ぶ声が耳に入った。


 勉強。

 勉強。

 勉強。

 僕はあと何年、こうやって言い続けられるのだろか?



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