僕の可愛いシロ [短編]
 僕は堪らなくなり、もう一度その小さな体を抱き上げ、着ていた洋服の中に押し入れた。

「ちょっと我慢してて」
 言ったことを理解したとは思えなかったが、その小さな体は洋服の中で声も出さずにジッとしていた。


 家に戻ると騒々しく母親が出てきて「ちゃんと捨ててきたでしょうねっ?」と、凄い剣幕で僕を睨み付けた。

「す、捨ててきたよっ」
 まだ小さかった僕が、初めてついた嘘。
 慌てて階段を上り、部屋に駆け込む。しばらくそのまま耳を澄ませていたが、母親が部屋まで来ることはなかった。
 僕はホッと溜め息をついて、洋服の中から小さな子猫を取り出した。

「今日から、ここがシロの家だよ」
 そう言ってニッコリ子猫に微笑みかけた。その時、何故“シロ”と呼んだのかはわからない。たぶん体が白かったからであろうが、頭で考えるより先に、自然とこの言葉が出てきたのだ。


 それから僕とシロの内緒の生活が始まった。今とは違い、まだ家にいることの方が多かった母親の目を盗んでは、シロにミルクを与えた。



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