僕の可愛いシロ [短編]
 その時、不意に家の電話が鳴り始めた。

 出るつもりはなかったのだが、切れては鳴り切れては鳴りを繰り返す電話の音に苛立ち始め、僕はシロを離し階下へと向かい、渋々受話器を上げた。

「はい。松浦です」
「――ユウちゃんっ? あんた学校も行かないで何やってるのっっ! 先生に電話したのよっ?」

 電話に出たことを一瞬で後悔した。その甲高い声を聞いて。

「塾にも行ってないのねっ? どうしてユウちゃんはそうなのっ? どうしてママをそんなに困らせるのよっ!」
「…………」
「――全く、まぁいいわ。帰ったらゆっくり話をしましょうねっ? 今日ね、帰る予定だったんだけど、クライアントとの話が長引いて、明日……いいえ、たぶん明後日になるわ。お金が足りなかったらいつもの所に入ってるから、ちゃんと何か買って食べなさい。明日はちゃんと学校行くのよっ!」
「……ごめん、なさい」
「わかればいいのよっ! じゃあ、ママ忙しいから切るわねっ」

 うるさい。ウルサイウルサイウルサイ。どうして僕を放っておいてくれないんだ――?



[6月8日]

シロの夢を見た。
とても悲しい気持ちになった。
けれど、今、僕のそばにはちゃんとシロがいる。
こんなにも似ているんだから、きっとあのシロの生まれ変わりなんだ。
そうだよねシロ?
僕に会いたくて戻ってきてくれたんだよね?
もう、絶対に離れたりしないから。



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