僕の可愛いシロ [短編]
 やはり母親の仕業だろうか?
 しかし家の中には母親の付けているあの独特の香りのする香水の匂いはなかった。

 ……やっぱりシロが自力で?

 だとしたらあんな小さな体だし、それに――あんな傷ついた足で遠くに行けるはずはない。


 僕は近所を隈なく探し回った。近所のおばさんが怪訝な顔を向けてきたが、今はそんなことを気にする余裕などない。

 シロ、勝手に外に出ちゃいけないって言っただろう?
 また……また車にでも轢かれたらどうするんだ?

 照り付ける太陽のおかげで、ムッと熱を持ったアスファルトから蒸気が溢れ出す。僕の額から汗がとめどなく滴り落ちる。


 シロシロシロシロシロ――僕のシロ。

 気が付けば、辺りは暗くなり始めポツポツと雨が降り出していた。
 だから雨は嫌いだって言ってるだろう? 頬に落ちた雨を、手で拭う。
 さすがに体力に限界を感じ始めていた。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。こうしている間にも、シロが事故に遭わないとは限らない。


 僕はフラフラになりながらも、また辺りをさまよい始めた。



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