僕の可愛いシロ [短編]
「――シロ」
 僕は母親から目を逸らし、ボソッと呟いた。
「シロ?」
 母親が眉を寄せて聞く。僕は、小さくコクンと頷いた。


「――あんたがっ、昨日小さな女の子抱きかかえて家に入る所見たってっ……田中さんがっ――!」
「…………」

 バッシーンという大きな音と同時に僕の視界が歪む。頬に電気が走ったかのように痺れる。

「何がっ……何がシロよっ! あんたっ、自分が何やったかっ――わかってんのっっ!?」

 母親はよろけた僕の体の上に馬乗りになり、顔を涙でグシャグシャにしながら、顔をグーで殴り続けた。


 その時、階段を駆け上がる何人もの足音がドカドカと響いてきた。

「――お母さんっ! 止めて下さいっ!」
 母親がスーツを着た厳つい顔の男の人に身体を羽交い締めにされた。僕も後ろから誰かに両腕をグイッと捕まれ、引っ張られるように強引に立たせられた。
 母親はそれでもなお、ハァハァと肩で息をしながら僕を睨み付けている。



「マリちゃんっ!」

 その時、ベットの方で高い声がした。
 僕は見えにくくなっている視界でベットに顔を向けた。シロが、優しそうな女性に覆われるように抱きしめられている。



< 37 / 38 >

この作品をシェア

pagetop