僕の可愛いシロ [短編]
「お宅のお嬢さんに、間違いないですね?」
 その女性の脇に立っているヒョロっと背の高いスーツ姿の男性が、事務的な口調で問い掛けた。
 女性は涙を浮かべながら、何度も懸命に頷いている。


 ……マリちゃん?

 シロは、そんな名前じゃない。
 シロは、シロだ。僕の、シロだ。


 僕だけの、可愛いシロだ。


 シロがその女性に抱きかかえられながら、数人の男性に囲まれるようにして僕の部屋から出て行こうとする。

 なんで、だ……?

 僕達はずっと一緒にいるはずじゃないか――どうして僕を置いていくの?
 僕にはシロしかいないんだよ……?


 シロ。

 シロ。

 シロ。

 シロ……行くな――行かないでっ!



「――シロっっ!」
 僕は声を振り絞って叫んだ。

 シロの体がピクンとその声に反応し、顔をゆっくり僕の方へと動かした。





 そして


 とても哀しそうな顔で、シロがゆっくりと微笑んだ。

 まるで――“ごめんね”とでも言っているかのように。



[―Fin―]


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