ドッきゅん!
そんな子どもの遊びに巻き込まれて私は怪我なんかしたのか。少し腹立たしくも感じる。
「でも、かくれおになんかに、あんなに必死にならなくても……」
「ただのかくれおにじゃねぇんだよ。賭けだ、賭け」
「賭け?」
「ああ。捕まったら奢るっていうルールつきのな」
「何それ……案外子どもなんだね」
「てめぇ下ろすぞ?」
「あ、すみません……」
自意識過剰かもしれないけど、この人とのやり取りがスムーズになってきている気がする。
それに、賭けのために一生懸命走り回るって、ちょっと可愛いし。
「あ、でも休戦って言ってたよね?」
「不注意なお前のせいでな。お陰で春休みの思い出がひとつ潰された」
「もう! だから、そっちが突進してきたんだからね!?」
「あー、はいはい。うっせぇから耳元で叫ぶなバカが」
「バっ……!?」
ドジの次はバカ!? この人、私のこと見下しすぎ! ムカつくなぁ!
私がいじけて頬を膨らませていると、前を向いているはずなのに、『頬膨らませんな、キモいぞ』って言われた。後頭部にも目がついているのだろうか。
「そういえばお前名前は?」
「名前? あ、そうだ、忘れてた! 町谷陸! じゃあそっちは?」
「俺は……あ、町谷。お前ん家ここか?」
足を止めたちょうど前。見覚えがある。いつの間にか、自分の家まで来ていた。
私は背中からそっと下りて、痛みは大分引いていたから自分で歩いて玄関まで行った。
「じゃあ、ありがとう」
「ああ。ぶつかって悪かったな」
「やっと謝ったね」
「俺はお前ほどバカじゃねぇから。常識ならある」
「うざっ! だったら、最初から謝ればよかったのに」
「うっせぇドジっ子。じゃあ、俺帰るからな。お大事に」
「あ、うん、本当ありがとうね」
私は最後まで見送って、家へと入った。
そういえば、名前を聞いていなかったな。
――そう気づいたのは、その日の夜中のことだった。