ドッきゅん!
「そりゃあ知ってるよ! 翔ちゃんが怪我させちゃった子でしょ? 翔ちゃんあの後、何気に陸ちゃんのことずっと気にかけてたんだよ~! 笑っちゃうよね!」
「笑うなっつの。怪我させた奴を気にかけるのは当たり前だろ。常識だ、常識」
表情ひとつ変えないで、宮田はサラリとからかいを跳ね返す。なんて強靭な精神を持つ男なんだ……鉄の男か?
「出たよ、翔ちゃんの照れ隠っ……うぉわっ!?」
「ムカつく奴には、鉄拳制裁……これも常識だよなぁ、大和?」
宮田から、ブワッとドス黒いオーラが放たれた……ように見えた。
「そんな常識、非常識だあああああああああああああああっ!」
廊下に、大和くんの悲痛な叫びが響き渡る。宮田に、しこたま殴られてるみたい……。
「あー、スッキリした」
大和くんを殴り終わった宮田は、やけにツヤツヤしていた。大和くんは……屍状態。ご愁傷さまです。
「宮田は鬼だね、うん。鬼」
「あ? 何言ってんだチビが」
「うわ、こっわい顔!」
「るせぇな、元々こんなんだよボケ」
下がり気味の眼鏡をクイッと上げる仕草は、確かにかっこいい。が、しかし。やっぱり言ってることは最悪だからダメだこいつ。イケメンなんかじゃない!
「お~、イテテ」
あ、大和くんが起き上がった。綺麗な髪の毛が、ボッサボサ。
「大丈夫? 大和く……」
「まーたケンカかぁ? 飽きないなぁ、2人共ぉ」
大和くんに声をかけようとしたら、どこからか、それはそれは大きな声が聞こえた。教室から顔を出して辺りを見渡すけど、それらしき人物は見当たらない。
「空耳?」
「おーい久しぶりぃ、元気だったかぁ? つっても、2日ぶりだけどなぁ!」
「一体どこから……」
もう一度見渡して、ハッとした。いや、いた。いたよ、それらしき人物。なんか、廊下の端っこから、手を振りながら近づいてくる人が……!
「って、デカっ! 何あれ巨人!?」
すごく目立ってるんだけど! 廊下にいる人、道開けてるし!
「うわ~、相変わらずデカいわ、憲くん」
「憲くん? ていうの? あの巨人」
「うん、本山憲広! 確かに、巨人だよな~!」
ケラケラと軽快に笑う大和くん。宮田は、ウザそうに溜め息をついた。