お題小説
「おはよう。」
彼の声と共に、暗い部屋に光が差した。
「よく眠れた?」
眠れるわけがない。
「なんだか、あまり眠れなかったみたいだね。大丈夫かい?心配だよ。」
頬に延びた彼の指先に、反射的に体がびくついた。
延びた手が止まる、触れる直前で。
ああ、カンに障ったらしい。
そう思った瞬間、その手は私の頬に強く打ち付けられた。
痛む頬を擦る。それすら許してはくれない。
何かを言っているけれど、聞き取れない。
こんなはずじゃなかった。
おはよう、と笑い合って幸せに包まれているはずだった。
早くに母を亡くし、父も病死した。私のために父が連れてきた継母と義姉たちにいびられつづけ、毎日が苦痛だった。
そんな毎日から救ってくれたのは、彼だったのに。
彼と幸せな日々を過ごせると思ったのに。
滲む白い壁を眺めながら、想い描いた幸せな日々を破り捨てた。
一瞬の幸せを記憶の底に押し沈め、今日が早く終わりますようにと、再び願う。
シンデレラのガラスの靴は砕け散った
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