つかまえて。
「吉野さんって、香水つけてる?」
微かに眉をひそめながら、篠田君が口を開いた。
「香水? つけてないよ。一つも持ってないの」
……もしかして私、臭うのかな。
やっぱり香水つけた方がいいかも。
こんなことで嫌われたくない、と泣きそうになったとき。
篠田君が私のことをじっと見下ろしていることに気がついた。
恥ずかしさのあまり、いつものように逃げ出したいのに、乗客の群れの中で全く身動きが取れない。
彼に見つめられている部分が甘やかな熱を生む。
「……わかった。香りの正体」
「え?」
不思議に思って首を傾げると、彼は私の背中に流れる髪を一房すくい、
ゆっくりと赤いくちびるを寄せていった。
まるで、花びらに対して愛しげにキスをするように。