運命を変えるため。

 座っていた席から立ち上がり頭を下げると、彼は口を開く。

「来てくれてありがとう、店主の高橋だよ」

 男性は名乗りながら俺に名刺を渡してきた。両手で丁寧にそれを受け取ると、そこには彼の名前の他に店名と連絡先、遠慮がちに小さく地図も載っていた。
 再び席に着くと、面接と呼ぶのが躊躇されるような雑談が続いた。

「いつから来れる?」

 高橋さんが最後に発したこの言葉を以て面接は終わり、想像以上にすんなりと採用が決まった。

 俺が今からでも働きたい旨を伝えると、高橋さんはおおらかに笑った。

「じゃあ明日から来てもらおうかな。今日は時間があるなら、少しだけ店の様子を見てから帰ったらいいよ」

 最後に、コーヒーくらいなら出してやろう、とサムズアップする高橋さんは、どこか嬉しそうだった。
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