ヘヴィノベル
 俺は前島の本を一時没収で終わりだと思ったが、担任は何か面白くない事でもあって虫の居所が悪かったのか、ネチネチと続けた。前島の前の席の生徒が持っていた本を「ちょっと貸せ」と言って取り上げ表紙をクラス全員に掲げて見せた。それは「アホと試験と召喚魔法」の第1巻だった。
「いいか、自習時間に読書をするのはいい事だが、選ぶ本を間違えるな!これは『あのライトノベルがすげえ!』2010年総合1位の名作。日教連の長年の努力で大学全入が可能になるまでこの国を蝕んできた、受験競争という物がまだあった時代の学校生活がいかに悲惨で非人間的な物だったかを描いた、社会派の告発小説だ。読むならこういう物を選べ」
 担任はその本を持ち主に返し、前島が持っていた本を両手で持ち、そして力任せに縦に引き裂いた。そこはヤワな造りの文庫本、筋肉バカの体育教師の腕力にかかればあっという間にばらばらになってしまった。担任は本の破片をこれ見よがしに前島の机の上に放り投げた。そしてこう捨て台詞を残して立ち去ろうとした。
「ふん!やはり親が自衛隊なんて奴はろくでもないな」
「親の職業は関係ないでしょ!」
 そう叫んだのは前島ではなく、なんと俺だった。俺は自分でも気づかないうちに机の上に両手をついて立ち上がっていた。前島を含めてクラス全員がギョッという目つきで俺を見ていた。
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