ヘヴィノベル
 まあ、みんなが驚くのも無理はない。一番驚いているのは俺自身だったからだ。そりゃ担任のやった事はいくらなんでも行き過ぎだとは思うけど、だからってセンコーに面と向かって食ってかかるなんて、俺はそんなキャラじゃなかったはずなんだけどな。
 前島の父親が自衛隊員なのは知っていた。それで学校の教師たちから何かにつけて嫌味を言われてきたのも知っている。ただ、どうして親が自衛隊だと学校で教師に嫌われなければならないのか、それは俺には今でも分からないんだが。
 担任は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに教壇に歩いていきファイル帳を胸の前に持ってきてこう言った。
「ようし、ではクラス全員の意見を聞いてみよう。他に誰か、私の言った事に疑問を感じる者はいるか?」
 担任はそう言ってこれ見よがしに胸の前のファイル帳をパタパタと前後に揺する。その表紙には「内申書記録」と書いてある。高校進学の時に俺たちの中学時代の素行とかを書いて提出する、アレだ。
 ちきしょう、汚いな。そんな物を目の前でちらつかされたら、本音を言える奴なんているわけねえじゃねえか。案の定、クラスの全員が目をそらして何も言おうとしなかった。担任は勝ち誇った笑いを顔中に浮かべて俺に言った。
「見ただろう?お前たち二人以外には、異論のある者はいない。つまりこのクラスの圧倒的多数が、先生の方が正しいと言っているわけだ。それが多数意見ならそれが正しい。これが民主主義という物だ」
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