ヘヴィノベル
 先生のアパートには簡単にたどり着いた。だがアパートの前には十人もの男たちが陣取っていて俺たちは中に入れなかった。そのうち半分は俺たちの学校のセンコーだった。園田先生の引っ越しを手伝いに来たと言ってたが、いくら何でも手回しが良すぎじゃねえか?
 口下手な俺のかわりに前島が必死にかけ合ったが、ついに園田先生には「今あの人は忙しい」の一点張りで会わせてもらえなかった。結局追い返されて、とぼとぼと帰路に着いた俺の横で前島がすごく真剣な顔でつぶやいた。
「先生が言っていた事態になったのよ。あたし行かなきゃ、あそこへ」
 俺は一瞬何のことか思い出せなかった。あの日先生から託されたディスクの事だと気づいた時、俺は全身が震えた。あれを「ゼンカクレン」とか言う組織の本部に届けてくれっていう、あの話か?
 俺は条件反射的に前島を止めようとした。何だかよく分からない怪しげな話だし、それにもし先生の言っていた事が全部本当なら、それは日教連にとって都合の悪い話だろ?夏休み中はいいとしても、新学期になったら学校で何が起きるか分かったもんじゃないし、いやそれ以前に「ゼンカクレン」の本部にたどり着く前に……
 だが前島は決然として行く、と言い張った。
「松陰君が気が進まないなら、あたし一人で行く。もしあれを届ける事が出来たら先生の転任の話をつぶせるかもしれない」
 俺は驚いて前島の横顔を見つめていた。どっちかと言うと大人しいを通り越して内気で弱々しい感じのこいつの、どこにこんな度胸があるんだ?俺もここに至ってやっと覚悟を決めた。
「分かった。じゃあ、俺も行く。女のおまえ一人を行かせたら、俺のメンツが立たねえよ」
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