ヘヴィノベル
 普段活字の本なんて教科書以外はまず読まない俺は、そのコーナーにたどり着くのも一苦労だった。やっと「涼宮ハレルヤ」シリーズの並んでいる列を探し出し、その第1巻「涼宮ハレルヤの憂鬱」を探し出し、それを持ってレジに並ぶ。
 家に帰る路上で俺はどうやって社会科のレポートを書こうか、頭を悩ませていた。この「涼宮ハレルヤの憂鬱」ってのは、2005年の「あのライトノベルがすげえ!」総合ランキング1位になった名作で、なんでも神と人間の葛藤と和解を描いた哲学的名著なんだそうだ。
 先輩に以前聞いたところでは、この中に出てくる「人間原理」とかいう言葉に適当に触れていればギリギリ合格点はもらえるし、インターネットからのコピペも多少なら大目にみてもらえるそうだ。けど、その「多少なら」ってその限度が俺には分からないんだなあ。
 あ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は松陰翔太。こう書いて「まつかげ・しょうた」。よく変わった苗字だって言われるけど、俺がつけたわけじゃないんだから、そこはほっといてくれ。
 俺は社会科の哲学倫理のレポートの提出を来週に控えて、その課題図書を買いに本屋に行ってきたところだ。そこで18禁本コーナーから飛び出してきたクラスメートの前島と鉢合わせしてびっくりというわけだったんだが、人は見かけによらないとは本当だなあ。
 しかし今はどうやってレポートを書き上げるかの方が問題だ。自慢じゃないけど、俺は学校の成績は最下位クラス。今度のレポートで合格点もらえなかったら留年の可能性だって出てくる。
 十年前までは出席日数さえ足りてりゃ義務教育で留年はなかったそうだから、ほんと損な時代に生まれちまったよ。なんでも昔大阪都を作った日本一新の会というのが政権を取ってから今の留年もありの制度に学校が変わっちまったらしい。
 俺は前島の事が頭のどこかに引っかかる感じを持ちながら、今夜中に「涼宮ハレルヤの憂鬱」を読み終えないと、と心配しながら家への夜道を急いだ。
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