ヘヴィノベル
 それから三日後の夏休みに入ったばかりの日、俺と前島はそれぞれ男子、女子の友達とキャンプに行くと嘘をついて家を出た。俺と前島は別にそんな関係じゃないが、さすがに中3の男女が泊りがけで一緒に行動するとは親には言えないからな。
 園田先生から渡されたブルーレイにくっついていた地図を頼りに、俺たちは「ゼンカクレン」という組織の本部に行ってみる事にした。それが一体どんな組織で、どんなメンバーで構成されているのか、俺にも前島にも見当もつかなかった。だが園田先生があんな事になった今、俺たちは藁にもすがる思いでそれに賭けてみるしかなかった。
 俺たちはまずJR新宿駅で落ち合った。前島は学校で見る時とはうって変わって、淡いピンクのジーンズにスニーカー、上は薄いブルーのタンクトップに七分袖の薄い上着という女の子らしい格好だった。小さな布製のショルダーバッグを抱えて、いつも三つ編みにしている髪は下ろして大きな髪留めを横に付けていた。
 服装次第で女は印象が変わると言うが、俺は妙にドギマギしてしまった。まあ長時間の移動になりそうだし、ひょっとすると田舎道を歩くことになるかもしれないので、そういう服にした方がいいと言ったのは俺だし、俺も青のジーンズとTシャツにぼろいリュックという格好だが、普段見るのと全く違う服装、髪型の女子って、なんか妙に気になるんだよな。
 それに前島って、普段はいかにも本好きの女子って感じで、ダサいってイメージしかなかったが、女らしい髪型にするとこうも可愛く見えるものなのか?前島が俺の視線に気づいてちょっと怪訝そうな顔をしたので、俺はあわてて目をそらして。いかん、いかん。こんな事を考えている場合じゃない。これじゃふた昔前のラブコメだ。
 とりあえず2千円チャージしたスイカというJR東日本のプリペイドカードを持って改札を通り、中央線のホームに向かう。まずは立川という駅まで行って乗り換えだ。だが、前島がいきなり俺の腕を痛いほど強くつかんでジュースの自動販売機の陰に引きずり込んだ。思わず声を上げようとする俺の口を正面から両方の掌を押し付けてふさぐ。
 何だ?と思っていたらすぐに理由が分かった。俺たちが隠れている販売機の向こう側を歩いている二人、あれは俺たちの学校のセンコーだ。周りが騒がしくてあまりよく聞こえなかったが、その二人は携帯電話でこうしゃべっていた。周りの音が大きいせいか、その話し声も自然と大きくなった。
「あ、はい。その二人が持っている……ブルーレイディスク……」
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