ヘヴィノベル
 俺の腕をつかんでいる前島の手に一層力が入った。俺もすっと背筋が冷たくなるのを感じた。このセンコーたち、俺と前島を追っているのか?学年とかの担当が違うので、俺はその二人のセンコーはよく知らない。その二人は電話を切り、こう話し始めた。
「しかし先生、見つけたとして、どうやって連れて行きます。手荒な事をするわけにはいかないでしょう」
「なあに、不純異性交遊の取り締まりという事にすればいいんです。しかしどっちへ向かう気だ?全革連の本部というのはどこにあるんだ?」
 これでもう間違いない。園田先生が俺たちに預けた例のディスクを狙っているんだ。だとしたら、俺たちを探しに町に出ている教師は多分もっといるんだろう。
 その時反対方向に向かう電車がホームに着いた。前島は俺に黙っているように言って、そのまま二人でその電車に乗り込む。いや、方向が逆だろうと俺は言いかけたが、前島は視線で俺を制した。さっきの二人の教師が俺たちに気づいて2両向こうの電車のドアに駆け込む。
 そして電車のドアが閉まる一瞬を狙って、前島は俺を引っ張ってホームに飛び出した。ゆっくり動き出す電車の窓の向こうで、さっきの二人の教師がこっちを見ながら悔しそうに歯をむき出しているのが見えた。
 俺は感心して前島の横顔を見つめた。いや、刑事ドラマとかでこういうシーンを見た覚えはあるけど、実際にやったのは初めてだ。しかも女子の前島がとっさにやってのけるなんて。いざとなったら男より女の方が腹が据わるって言うのは本当なのかもな。
 中央線で30分足らず、立川駅で青梅線に乗り換えて今度は1時間とちょっとかけて奥多摩という駅に行く。30分ぐらい経つと段々大きな建物が少なくなっていって、緑豊かな山や野原の風景が窓の外に目立つようになった。そろそろ奥多摩町に入ったらしい。
 地方に住んでいる人は「東京都」って言うと隅から隅まで大都会だと思っている人もいるらしいが、東京都も西の端の方まで来ると農村、山村って言っていい場所もあるんだよな。
 檜原(ひのはら)村っていう文字通りの「村」だって東京都の中にはあるんだ。俺たちが今目指しているのはそのさらに西の山奥になる町。
 ずいぶん長い事電車で隣の席に座っていたわけだが、俺と前島はその間ほとんど口をきかなかった。同い年の女子とこんなに長い間過ごしたのは俺は初めてだったし、しかも別にデートってわけじゃないから、何を話していいか分からなかった。
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