ヘヴィノベル
 前島は園田先生の事で頭がいっぱいで、俺とおしゃべりどころじゃなかったようだ。十分おきぐらいにバッグの中を探って、例のブルーレイディスクがちゃんと入っているのを何度も確認していた。
 奥多摩駅で電車を降りてバス停を探した。園田先生からもらった地図によれば、ここでバスに乗り換えてさらに西へ進む事になる。駅舎を出て何気なく振り返った俺は、あらためて東京都内にこんな場所があったのか?と思った。
 駅の裏手はもう緑が深く茂った山が、手が届きそうな距離に見えていたし、駅舎は瓦屋根の昔の蔵みたいな形をしている。だが空が黒い雲に覆われ始めているのが気になった。天気予報で局地的に大雨の惧れとか言っていたのを思い出した。この辺りの事だったのか?
 バスの待合所は駅から出て道路のすぐ向かい側にあった。そこへ向かいながら窓から中をのぞいて、今度は俺が先に気がついた。中には俺たちのクラス担任ともう一人の体育教師が座っていたからだ。
 俺は前島にその事を告げ、二人で身をかがめてあわててその建物から離れた。俺は建物の陰に座り込んで前島に訊いた。
「どうする?バスには乗れそうもないぞ。歩いて行けない距離じゃねえけど、下手すりゃ途中で日が暮れる」
 前島は少し考え込んでいたが、少し離れた場所に「自転車レンタル」と書かれた看板があるのを見つけた。俺たちは腰をかがめてバスの待合所の建物の前を横切り、その店で2台のマウンテンバイクを借りた。
 ついでに用心のため、ちょうど近くにあった雑貨屋で安物のビニールの雨合羽を買い、そのまま道路を西へ向かった。標識でその道が国道411号線、通称青梅街道という名の道路である事を確認し、そのまま山沿いに走った。細長い湖の端にさしかかったところで、嫌な予感通り空が雨雲で真っ暗になって雨が落ちてきた。俺たちは一度自転車から降りて雨合羽を着込んで、前島は濡らさないように自分のバッグを肩にたすき掛けにかけてその上から合羽を着た。
 湖に沿ってさらに走る。あとから考えればそんな大した距離じゃなかったはずだが、俺はともかく前島にはやはり長時間の自転車乗りは体力的にきつかったらしい。けっこう曲がりくねった道もあったので、思いのほか時間がかかった。
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