ヘヴィノベル
 全革連の本部の建物は、その場所から歩いてすぐの場所にある山荘風のしゃれた洋館だった。もう雨は小降りになり始めていて、俺たちはその家の居間に通され、前島はあの上条という人が奥の部屋へ足の応急処置のために連れて行った。雨合羽を着ていたとは言え、俺の服はかなり濡れていて、とりあえず貸してもらったジャージに着替えた。
 俺が居間に戻ると、ちょうど似たような女子用のジャージに着替え足首に包帯を巻いた前島が上条さんに連れられて戻って来た。上条さんは俺たちを二人掛け用のソファに座らせ、自分はテーブルをはさんで向かい側の一人掛けのソファに座った。あの男の人二人は俺たちが借りた自転車を返しに行くと言って、出て行った。
 上条さんはキッチンの冷蔵庫からコーラのペットボトルを3本取って来て俺と前島に渡し、自分も1本飲みながら微笑をたたえた顔で俺たちに話し始めた。
「彼女の足は大丈夫よ。ちょっとひねっただけで、明日には何ともなくなるわ。さて、何から話せばいいかしら?」
 前島がテーブルの上に身を乗り出さんばかりの勢いで尋ねた。
「あの、そもそもゼンカクレンって一体何なんですか?どうして園田先生はあれをあなたたちに届けるように言ったんですか?」
 上条さんは長いストレートの髪を指先でいじりながら少し考えた。それにしても綺麗な人だ。それに言葉づかいや身のこなしに妙に品がある。どこかいいトコのお嬢さんなんだろうか。そして上条さんはついに口を開いた。
「全国革命的中高生連盟。略して全革連。日教連の横暴と戦うために組織された、日本中の中学、高校の有志で結成された学生結社ってところね。そしてここがその全国中央本部よ」
 今度は俺がおそるおそる訊いてみた。
「あの、さっき俺たちの担任のセンコー、あ、じゃなくて、先生たちの車は、なんであそこで引き返したんですか?」
「ここはもう東京都じゃないからよ」
「は?」
 俺は上条さんのいう事がすぐには理解できなかった。
「あの橋を渡るとき気づかなかった?あ、そうか、あの土砂降りだったものね。あの橋からこっち側はもう山梨県なの。ここは山梨県の丹波山(たばやま)村という場所よ。あの人たちは日教連東京都支部の先生たちでしょ?よその県では勝手な行動はできないのよ」
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