ヘヴィノベル
 上条さんの言葉を俺と前島は呼吸が止まりそうな驚愕と共に受け止めた。いや、そんな馬鹿な!
「まあまあ、姫。中学生にいきなりそれ言っちゃ話が続かなくなるよ」
 パソコンのマウスを操作しながら風間さんが首だけ振り返って言う。竹本さんも横から口をはさんだ。
「ええと、前島さんに松陰君だっけ?君たちが聞かされてきたのはこんな話だろう。戦後GHQによって日教連はこの国の子供を共産主義勢力の悪影響から守るために設立された。そして現在までずっとその使命を果たしてきた。どうだい?」
 俺と前島は無言でうなずいた。あとはまた上条さんが言葉を続けた。
「日教連がGHQの戦後の民主化改革の結果生まれたのは本当よ。GHQは教師や教育行政の偉い人たちの多くを公職追放と言って、無理やりクビにさせたの。その人たちは戦前の軍国主義教育の責任があるという理由でね。でも戦後新しく教師になった人たちの中には共産主義者や、社会主義政党の熱狂的な支持者がたくさんいたの。その人たちはGHQによって軍国主義ファシズムから解放された日本は、社会主義国家になるべきだと思っていたの」
 日教連がかつて社会主義、共産主義の支持者だった?そんな馬鹿な。俺たちの顔色を見た竹本さんが続きを語った。
「まあ信じられないのも無理はない。だが本当の話だよ。しかし1950年に朝鮮戦争が起きて……あ、これはもう習ったかな?」
 俺と前島がうなずいたのを確かめて竹本さんは続ける。
「日本で共産主義革命が起きるかもしれない、その危険が現実になった時GHQは日本に関する方針を変えた。一転して共産主義者や社会主義勢力に冷たくなったわけさ。そして日本に再軍備をするように迫って今の自衛隊の前身を創設させた。そして1951年に日本の占領が終わって日本が独立を回復すると、日本国憲法を廃止してもう一度新しい憲法を作り、再軍備をしてアメリカと同盟して共産主義革命を防ごうとする勢力が政治の実権を握った。一方でかなり多くの日本人が本気で日本を社会主義国家にしようとしてデモをやったりして闘った。そのハイライトが1960年と1970年の二度の日米安保条約の改正だ。警察とデモ隊が角材、火炎瓶、催涙ガス弾を打ち合ってまるで戦場のような騒ぎが東京でも起きた。けど結局社会主義革命は日本では成功しなかった。それを夢見ていた人たちも学生のうちはよかったが、そろそろ就職しなきゃ、という年になってしまった」
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