ヘヴィノベル
「待ってください!」
 また前島が疑問を口にした。俺はただ黙ってみんなの話を聞いていた。いや正直言って、話が難しくなり過ぎて俺の頭で理解できるレベルを越えていたからなんだが。前島は俺の様子にはかまわず言った。
「共産主義はもう過去の物でしょう?ええと、冷戦体制の崩壊とか言って。日教連はどうしてその時弱体化しなかったんですか?」
 竹本さんが「ヒュー」と声を上げてからかい気味に言う。
「中学生でこのレベルについてこれるとはなかなかのもんだ。そう、確かに1991年のソビエト連邦崩壊で共産主義は世界的に終わった。でもね、人間というのはある程度の年を越えると、なかなか頭の切り替えができないものなんだ。日本社会党が名前を社会民主党に変えて生き残ろうとしたけど、考え方がなかなか変えられずに衰退したようにね。日教連も今さら社会主義じゃやっていけない事は理解していただろう。そこで代わりのスローガンとして持ち出したのがジェンダーフリーだった」
「あ、男女平等の事ですか?」
 そう訊いた前島に大きくうなずいて竹本さんは話を続けた。
「ちょうど世の中では、女性の大学出のサラリーマン、いわゆるキャリアウーマンがもてはやされていたからね。これからは女も社会に出て男に負けずに偉くなるべきだ。日教連は社会全体の女性差別撤廃、男女平等を進めるためにジェンダーフリーを学校現場に持ち込んだ。これ自体は間違いじゃない。けど、そのやり方が間違っていた。この先は姫が話した方がいいな。女の子だからな、相手が」
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