ヘヴィノベル
 もう俺も前島も口を半開きにしたまま言葉が出て来なくなった。俺たちが知っているこの国の学校教育の歴史とあまりにも違い過ぎる。もしこの人たちが言っていることが全て本当なら、今まで俺たちが「社会のルール」だとか「世間の常識」だとか、そう思ってきた物は一体何だったんだ?
「あ、あの……」
 前島が、ほとんど苦しそうにさえ聞こえるような声で上条さんに訊いた。
「じゃあ、もしかして文学作品が18禁になったのも、そんなに昔の事じゃなかったりしますか?」
 上条さんたちはこっくりとうなずいた。まず竹本さんが言う。
「今から十年ぐらい前だったかな、その頃は大阪府知事や大阪市長をやっていた、日本一新の会の橋ノ下さんって政治家がいるだろ?あの人が条例という、まあ、大阪市とか大阪府限定のローカルな法律みたいなのを作って、日の丸、君が代に反抗する教師を厳罰に処すようにしたんだ。それで日教連は段々、さっきのビデオ映像に映っていたような反対運動はやりにくくなった」
「それと文学の話とどういう関係が?」
 いぶかしそうに言う前島を手で制して今度は風間さんが話し始めた。
「つまり日教連は派手に、この事に反対!って言える対象を失ったわけさ。ちょうどいい事に、と言うべきか、そのほんの数年前、東京の都知事が別な条例を制定していた。マンガやアニメの内容を規制する条例でね。さっきの映像の中にもちょっとあっただろ?日教連はこれに飛びついた。若者のための表現の自由を規制するのは許さんぞ、ってね」
「あれ?」
 今度は俺が思わず声を上げた。
「すいません。その時の都知事ってライトノベルを発禁とかにしたんですか?」
 風間さんは苦笑しながら答えた。
「ああ、ライトノベルも含まれる。ただし、だ。その規制されるマンガやアニメやライトノベルというのは、今で言うチャイルドポルノだ。特に制服の美少女を性的に凌辱するなんて作品が人気だったんで、それを未成年に売るなという話さ。18禁指定というのはね、本来はそういう意味だったんだ」
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