ヘヴィノベル
 あ、ああ。そう言えばそんな話したよな。もっとも俺には半分くらいしか理解できなかったんだけど。上条さんが興味を持ったようで、前島からその時の事を詳しく聞き始めた。終わるとソファの背もたれに体をポフっと投げ出すようにして言った。
「ふうん、うまい事言うわね。ますます一度会ってゆっくり話をしてみたくなったわ。言われてみればこの国はそういう歴史を繰り返しているのかもね。戦前戦中は右のファシズム。戦後の左翼はそれを否定すると言いながら、やっていた事は左のファシズム。右でも左でもファシズムには違いないし、そこを変えなかったら本質は何も変わらない」
 それから上条さんはスカートのポケットから小さな紙の箱を取り出し、俺と前島に一つずつ手渡した。うながされて開けてみると銀色の小さなバッジがあった。丸く変形した字体ですぐには分からなかったが、表面に「革」の字が赤くデザインされている。
「それは全革連の加入者のバッジよ。あ、本当に全革連に入るかどうかは君たちがゆっくり考えて決める事よ。高校生になってから、の方がいいかもね。ただ今回の件に深く関わっちゃったでしょ、君たち。しばらく登校する時はそれを胸につけておきなさい。気休めのお守りぐらいにはなるわ」
 俺たちが礼を言ってそれを受け取ると、上条さんは「じゃあ、そろそろ行きましょ」と言ってテーブルの上の伝票を手に取った。
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