ヘヴィノベル
 それから数週間後、夏休みの中間の登校日。俺は上条さんに言われた通り、シャツの胸ポケットの上に全革連のバッジを付けて学校に行った。前島もセーラー服の右胸にバッジを付けていた。
 登校日だから全校集会とホームルーム、あとは教室や校庭の掃除とかで昼前には終わってしまう。さてどうするか、と思っていたら前島がカバンから一冊の本を取り出した。それは……何考えてんだ、前島!文学少年シリーズの「繋がれた賢者」かよ。それを堂々と教室で手に持つなんて。案の定担任の先生が足早に近寄ってきて前島を怒鳴りつけた。
「こら!おまえ、どういうつもりだ!」
「これはれっきとしたライトノベルです。その中で何を読もうと、個人の自由だと思います」
「き、きさま、教師に向かって」
 そう言って手を前島に伸ばしたので俺は反射的にその間に割って入った。担任の手は俺の胸ぐらをつかんだ。
「また、おまえもか!」
 だが、担任の手の力が急にゆるんだ。担任の視線は俺の胸ポケットにくぎ付けになっていた。全革連のバッジに気づいたらしい。そのまま担任は視線を前島の胸元に向けた。そこにも全革連のバッジ。担任が俺から手を離した時、その態度は一変していた。
 担任はひきつった愛想笑いを浮かべて必死そうな口調で言った。
「うん、ああ、まあ、そうだな。確かに個人の自由だ。いや、すまなかったね。うん、もう行っていいよ」
 俺は念のため前島と並んで教室を出た。廊下をちょっと言った所で後ろから追いかけてきたクラスメートの一団に囲まれた。クラスメートたちは口々に俺と前島に訊く。
「なあ、さっきのあれ、どうしたんだよ?」
「センコーを撃退するなんて、すげえ!」
「きゃあ、前島さん、かっこよかった!あたしも一度でいいから、ぎゃふんと言わせてやりたかったのよね」
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