ヘヴィノベル
 俺の動揺を見透かしたように園田先生が長いストレートの髪を揺らしながらクスクスと笑った。
「それはイラストが全面改訂される前の版よ。あたしも好きだったからね、学生時代には」
「ちょっと待って下さいよ。先生だって学校教師なんだから、日教連に入っているんでしょ?1990年代から未成年の性の乱れを取り締まってきたのが日教連なんでしょ?これはいくらなんでもまずいんじゃないですか?」
「性の乱れを取り締まってきた、ねえ……」
 園田先生はなぜか、ふっとため息をついた。が、すぐにまたいつものいたずらっぽい笑顔に戻って俺に言った。
「なんにせよ、君はそれを見ちゃったのよねえ?さあ、口止め料に何をもらおうかしら?」
「て、先生、俺をはめたんですか?」
「あはは、冗談よ。ただ、ついでにもう一つ秘密にして欲しい事があるんだけどな」
「かなわねえな、先生には。まあ、いいですけど。何ですか、秘密って?」
 園田先生はそれには直接答えず、首を後ろに回してベッドの周りを囲んだカーテンの方に向かって言った。
「大丈夫そうよ、出ていらっしゃい」
 ゆっくりと白いカーテンが両側に開き、そこから出てきたのは前島美鈴だった。俺は言われるまでもなく、先生の意図を理解した。
「こんな手の込んだ事しなくたって、前島の事を言い触らしたりする気はないですよ。分かりましたよ、お互いに秘密って事で、それでいいんでしょ?」
 園田先生は俺の両手を握って一方的にブンブン上下に振った。
「さすが松陰君。君なら分かってくれると思ってたわ」

< 7 / 50 >

この作品をシェア

pagetop