放課後の視聴覚室は密の味
「先生じゃないだろ?」
僕は奈菜の肩に顎を乗せ、耳元で囁く。
奈菜はくすぐったそうに首を捩りながら振り向くと
「だって、さっきまで先生…じゃなくて、秀が私の教室にいたんだもん」
と、口を尖らせた。
「それは、関係ないだろ?」
「関係あるの。
だって…ほら…何て言うか……
みんながいれば、秀は先生なワケで、私も生徒だし?
その延長でつい?生徒病みたいな?」
奈菜は、真剣な顔を作って得意げに理屈を並べるが、その顔にはバツが悪そうな笑みが含まれている。
「そんな言い訳じゃ納得できないな。
今ここには、僕たち以外は誰もいないし、それに授業も終わってるよ?」
僕はイジワルに言って、奈菜の髪を掬い、それにキスをして、耳にもキスを一つ。
奈菜はまた首を捩らせ“もう~"と、頬を膨らます。
「なに?」
何でもないように澄まして尋ねる僕。
「絶対ワザとでしょ?
“耳はくすぐったいから止めて”っていつも言ってるのに」
そう言って再び頬を膨らませた奈菜は、木の実を口に詰め込んだリスみたい。
本当に奈菜は耳が弱いな。
でも、それを知っているから余計に構いたくなる。
こんな反応が見たくて、ついつい意地悪をしてしまう。
僕はニヤけそうになるのを堪えて
奈菜から顔を背け、とぼけて見せた。